Creepy Nutsの楽曲には、聴く人の心を鷲掴みにし、深く考えさせられるものが数多くあります。中でも、DJ松永さんの作り出す不穏でスリリングなトラックの上で、R-指定さんのラップが火花を散らす一曲、「doppelgänger」(ドッペルゲンガー)。
この曲は、なぜこれほどまでに私たちの心を揺さぶるのでしょうか。 インタビューなどで語られた彼らの言葉をヒントに、この曲が生まれた背景と、歌詞に込められた壮絶な想いを一緒に探っていきましょう。
まずは公式YouTubeで聴いてみよう
何はともあれ、まずは一度聴いてみてください。かっこいいですよ。
【MV】Creepy Nuts – doppelgängerより
すべての始まりは「忍び」の世界
この曲が生まれる直接のきっかけは、山﨑賢人さん主演の映画『アンダーニンジャ』の主題歌のオファーでした。
この映画は、現代の日本に忍者が存在し、普通の人として生活に溶け込みながら秘密の任務を遂行するという物語。つまり、「表の顔」と「裏の顔」を巧みに使い分ける忍者の姿が描かれています。
この「複数の顔を持つ」というテーマが、「doppelgänger」の核心へと繋がっていくのです。
Creepy Nuts自身が語る「色んな自分」
楽曲の発表時、彼らはこんなコメントを寄せています。
「皆さんも色んな自分を抱えて日々日常に忍んで生きている事と思います。我々も同じで…(中略)…そんな様々な自分が入れ替わり立ち替わりあらゆる術を使い日常に溶け込んでいるのです」
これって、すごく共感できませんか?
- 仕事や学校で見せる「ちゃんとした自分」
- 友達といる時の「素の自分」
- 家族だけに見せる「甘えた自分」
- そして、誰にも見せない「心の中の自分」
私たち誰もが、日常という名の戦場で、様々な自分を使い分けて生きる現代の忍者のようなもの。この曲は、まずそんな普遍的なテーマを私たちに突きつけてきます。
歌詞に込められたR-指定の「内なる戦い」
そして、この曲の凄みは、そのテーマをR-指定さん自身の壮絶な内面描写にまで落とし込んでいる点です。
かつて彼は、自分の内面を深くえぐり出して歌詞を書くことを「自傷行為のよう」と語っていました。その言葉が、この曲ではよりリアルな叫びとなって響きます。
聞いてっか?オレ 見えてっか?オレ 生きてっか?オレ 死んでっか?オレ
出典:Creepy Nuts「ドッペルゲンガー」(作詞:R-指定, 作曲:DJ松永)
この曲は、冒頭から聴く者を混乱の渦に突き落とします。
これは、自分自身の存在を確かめるような、悲痛な叫びです。そして、次々と現れる矛盾した自己紹介。
新鮮なオレ ヴィンテージなオレ 知ってっかオレ うっせーなオレ
出典:Creepy Nuts「ドッペルゲンガー」(作詞:R-指定, 作曲:DJ松永)
まるで自分の中に何人もの「オレ」がいて、それぞれが勝手に喋りだすような、アイデンティティが分裂していく様が描かれます。そして、その混乱の象徴として、あのフレーズが登場します。
よく似てんな ey 俺お前のドッペルゲンガー ey
出典:Creepy Nuts「ドッペルゲンガー」(作詞:R-指定, 作曲:DJ松永)
ここに現れるドッペルゲンガーは、自分とそっくりなだけの別人ではありません。それは、自分の中から生まれた、もう一人の自分自身なのです。
では、そのドッペルゲンガーの正体とは何なのでしょうか。歌詞は、その驚くべき役割を明かします。
俺お前の痛みの権化
俺お前の怒りの権化
穢らわしい魂の権化
俺のせいにしたらばOK
出典:Creepy Nuts「ドッペルゲンガー」(作詞:R-指定, 作曲:DJ松永)
なんと、ドッペルゲンガーは、自分が抱える痛み、怒り、汚らわしさといった、負の感情をすべて引き受けてくれる存在だったのです。「辛いことは全部『あいつ』のせいだ」と責任転嫁させてくれる、自分を守るための安全装置。それは、あまりにも人間的な心の防衛本能と言えるかもしれません。
鎧であり、仮面であり、着ぐるみかつ戦闘機 身代わり、生まれ変わり、まぁ何でも良い…
出典:Creepy Nuts「ドッペルゲンガー」(作詞:R-指定, 作曲:DJ松永)
溶け合う境界線と「俺達」という概念
本物と偽物、表と裏。その境界線は、やがて意味をなさなくなります。
様々な「自分」は、状況を生き抜くための装備(鎧、仮面)であり、便利な乗り物(戦闘機)でもある。どれが本物かなんて、もはやどうでもよくなっていきます。
俺がオモテ お前がウラ お前オモテで 俺がウラ まぁどっちでも良い
出典:Creepy Nuts「ドッペルゲンガー」(作詞:R-指定, 作曲:DJ松永)
このフレーズは、もはや主従関係が崩壊し、全ての自分が等価値になったことを示しています。そして、その自分たちは、メディアやネットの世界を通じて、さらに増殖していきます。
テレビのアイツ、ミームのアイツ、海超えて世界中
出典:Creepy Nuts「ドッペルゲンガー」(作詞:R-指定, 作曲:DJ松永)
もはや自分のコントロールを離れ、世界中に散らばっていく無数の「自分」の断片。それら全てが、自分自身なのです。
まとめ
Creepy Nutsの「doppelgänger」は、自分の中にいるもう一人の自分と戦い、打ち負かす歌ではありません。 現代社会を生きる中で、分裂し、増殖していく無数の自分(ドッペルゲンガー)たち。それら全てを否定せず、時にはその存在に助けられながら、共に生きていく。
「本物の自分は一人だけ」という幻想を打ち砕き、「たくさんの顔を持つことこそが、人間なんだ」と、ある種の諦めと、そして力強い肯定をもって突きつけてくる。これこそが、この楽曲の本当のメッセージなのかもしれません。
追伸:Creepy Nutsというグループ名におけるスラングは「Nuts」で、「クレイジー」や「睾丸」という意味合いを持ちます。グループ名が「Creepy(奇妙な)」と「Nuts(クレイジー)」を組み合わせた造語であると説明されています。
英語を使えない自分からしたら面白い発想です。
大好きなグループです。

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