こんにちは! 今日は、懐かしい名曲、2002年にリリースされたキンモクセイの2ndシングル「二人のアカボシ」についてお話ししようと思います。
キンモクセイというバンドは、自分たちが愛する「昔の日本のポップス(ニューミュージックやシティポップ)」への尊敬を込めて音楽を作っていました。
「二人のアカボシ」は、特にその色が濃く出ています。 キラキラした都会の夜景ではなく、「夜明け前の工業地帯」や「高速道路」といった、少しホコリ臭くてリアルな風景。それが、私たちの心の奥にある「懐かしさ」を刺激するんですね。
あの独特の世界観は、一体どのようにして生まれたのでしょうか?
まずは公式YouTubeで聴いてみよう
何はともあれ、まずは一度聴いてみてください。
キンモクセイ「二人のアカボシ」OFFICIAL MUSIC VIDEOより
🎵 歌詞の謎:「ミヤウジヤウ」ってなに?
歌詞の中に、ちょっと不思議なカタカナが出てきます。
「しみるようミヤウジヤウ ハルカカナタへ」
実はこれ、「明星(みょうじょう)」という言葉を、あえて昔の仮名遣い(歴史的仮名遣い)のような響きで歌っているんです。
さらに深いエピソードとして、これはChar(チャー)さんというギタリストの名曲『気絶するほど悩ましい』などの歌詞や歌い方へのオマージュ(尊敬を込めた真似)だと言われています。 「しみるよ〜ぅ」という独特の歌い回し、まさにあの時代の空気感を再現しているんですね。
🌃 歌詞が描く物語:二人はどこへ行くの?
では、歌詞をじっくり読み解いてみましょう。 ここには、「現実からの逃避」と「二人の決意」が描かれています。
1. 舞台は「夜明け前の工業地帯」
夜明けの街 今はこんなに静かなのにまたこれから始まるんだね 眠る埋立地(うみべ)と 化学工場の煙突に星が一つ二つ吸い込まれ
出典:キンモクセイ「二人のアカボシ」(作詞・作曲:伊藤俊吾)
物語の始まりは、まだ薄暗い早朝。 場所は、おそらく東京湾や神奈川の工場地帯(彼らの地元・相模原や国道16号線のイメージとも重なります)。 これから騒がしい日常(仕事や現実)が始まってしまう。その直前の静けさの中に二人はいます。
2. 衝動的な逃避行
あの高速道路の橋を 駆け抜けて君つれたまま 二人ここから 遠くへと逃げ去ってしまおうか
出典:キンモクセイ「二人のアカボシ」(作詞・作曲:伊藤俊吾)
このフレーズは、現状から抜け出したい、「君」と二人だけで新しい場所へ行きたいという、若者特有の切実でちょっぴり無謀な願いを表しています。 隣にいる「君」を連れて、このままどこか遠くへ行ってしまおうかと悩みます。夜明けの空の下、現実が始まる前に、衝動的に遠くへ逃げたいという気持ちが、聴く人の心に響きます。
3. 「二人のアカボシ」とは何か?
さようなら街の灯りと 月夜と二人のアカボシ
出典:キンモクセイ「二人のアカボシ」(作詞・作曲:伊藤俊吾)
「赤星(アカボシ)」という言葉は一般的な天体の名称ではありません。
実在しない言葉を使ったのは、“ふたりの関係を象徴する特別な星”を表したいからだと考えられます。
歌詞には、「夜明けの街で星が見えなくなる」「か細く消えそうな光」「他の灯りに飲まれてしまう存在」といった描写が続きます。
つまりアカボシとは、他の光にかき消されそうな、弱くても特別な星=ふたりの想いという象徴。
星を「赤」にしたのは、生命・情熱の色、危うさ・熱さ・か細さが同居する色だからです。夜が明ければ消えてしまう。街の光に負ければ見えなくなる。でも、確かにそこに輝いていた“二人だけのしるし”。この曲の切なさを象徴する、非常に詩的でキンモクセイらしい表現ですよね。
🎬 結末:そして朝が来る
懐かしいメロディーは 風と共に終わる 君の髪の毛が震えてる
出典:キンモクセイ「二人のアカボシ」(作詞・作曲:伊藤俊吾)
最後、二人は本当に逃げ切れたのでしょうか? 「君の髪の毛が震えてる」という表現からは、不安や寒さ、そして未来への迷いが感じられます。
おそらく、完全には逃げ切れなかったのかもしれません。 それでも、「君が振り向く前に(現実に戻る前に)、最後の想いを話そう」とする姿は、とても人間らしくて胸を打ちます。
おわりに
「二人のアカボシ」は、“朝がくると、僕らは別々の現実に戻らなきゃいけない”という切実な感情を歌詞にしています。
ふたりの関係は、まだ形になりきっていない。
だからこそ、朝になる前に、少しでも遠くへ逃げてしまいたい。
それくらい不安で、か細くて、壊れやすい。
でも、夜明けは必ずやってくる。
「繰り返される日常から、ほんの一瞬だけ抜け出そうとする大人の青春」を描いた曲だと思います。
夜明けの空の色、工場の煙、カーステレオから流れるラジオ。 そんな風景を思い浮かべながら、もう一度歌詞を噛み締めてみてはいかがでしょうか?
きっと、あの頃とは違った景色が見えてくるはずです。

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